さよーならあなた

変な時間に目が覚めた。そんなときはいつも、部屋でひとり、どうしようもない。しばらく大人しくしていたけど、部屋の蒸し暑さと、陰鬱な気分に嫌気がさして、それと、とにかくお腹が空いていたから、外へ飛び出した。すでに外は明るんでいて、やっぱり夏の夜って短いんだなあとか思いながら、どこへ行くわけでもないけど自転車をこいでた。最近の暑さはたまらないものがあるけど、吹き抜ける風は4時台とだけあって、部屋に籠ってた肌には気持ちよくて、なんとなく、ひさしぶりにカネコアヤノが聴きたくなった。

うつむきがちな夏の朝には誰かに迷惑かけたくて仕方ない

あの日からもう1週間たつけど、べつになにも変わらないんだ。ただもう会えなくなったってだけで。もうここ最近はずっと夢を見てるような気分で、それは決していい意味ではなくて、現実感がないというか、死ぬことすらすぐそばにあるような、もうどうでもよかったんだよ。一体あの日々はなんだったんだろう。人目も憚らず口ずさみながら思い立った。そうだ、一緒にこのうたを歌ったあの場所へ行こう。

途中のコンビニでアイスコーヒーとカレーパンを買って、片手でよろよろとあの土手まで。思えばいつもここへ来るときは夜だったから、ちょっと新鮮な景色だった。今日みたいな青々しい匂いのする爽やかな朝とは正反対だった毎日のこと、そんななかで出会った人、忘れたい夜、好きだった歌、あいつと聴いた歌。本当にどうしようもないところまで落ち込んでいたけど、なんとかやっていかなくちゃな。

イヤホンを取ったら、川のそばで空になったアイスコーヒーのカップを持った俺がいた。蝉が鳴いていて、静かに、ざわざわと川は流れていた。どうしようもなく夏だった。時間を確認したら5時過ぎだったけど、わざとらしいくらい大きくて真ん丸な太陽は、もうじんわりと街を温めはじめてた。横に大きく列になって飛んでいる鳥たちが小さくなっていくのを見つめていてやっと今日に俺が追いついた気分になった。俺のための朝だ。まだ何もかも忘れてるみたいに、まるで気づいてないみたいに、綺麗な空気を何度も大きく吸った。今までの分を取り返すみたいに。